Q 「明日から来なくていい!!」と社長に言われました。退職するしかないのでしょうか?
A 事案によりますが,一般の方が思っている以上に労働者側の立場は強いです。はっきりした業務ミス等がなければ争いましょう。
A 解雇には,
・普通解雇(能力不足等による解雇)
・懲戒解雇(処罰としての解雇)
・整理解雇(人員削減のための解雇)
があります。実際の事例は,「社長の逆鱗にふれていきなり懲戒解雇」という乱暴な事例がほとんどです。
・それを知っていたら雇わなかったというレベルの重大な経歴詐称
・無断欠勤や遅刻が多く,何度注意しても直らない
・正当な業務命令(配転や残業など)に従わない
などの場合,懲戒解雇が有効となる余地があります。しかし,
・就業規則に懲戒事由の記載がない,あるいは規則自体がない
・ミスや非行があったが,改善指導がない,業務との関連性が低い,謝罪しているなど
場合は解雇が無効となる可能性があります。
【ポイント】
①就業規則に懲戒事由の定めがあるか
②単発的ではなく,行為が複数あるか
③その行為は業務に重大な影響があるか
④指導しても改善の見込みがないか
一般論ですが,裁判所は,解雇有効とは容易に認めません。したがって,「会社の金を横領した」といったレベルでなければ,解雇を争いましょう。逆に,度々無断欠勤や遅刻をしてその証拠がタイムカードに残っているとか,始末書をとられているなど,
①軽くない業務上のミス等が
②複数回あり
③その証拠もばっちり残ってる
場合は,労働者側として強気に行くかどうかは検討を要します。
裁判すれば,職場復帰及び裁判中の賃金の支払,あるいはそれに近い和解金を請求できる可能性があります。勤務先がいわき市内にあれば,基本的にいわきで裁判となります。
◆裁判前に就業規則があれば便利ですが,労働基準監督署で就業規則閲覧はできないのが通例です。法律上の閲覧の根拠もありません。
◆解雇を争いながら失業保険の仮給付を受けることが可能です。もちろん,勝訴(=解雇無効)となったら要返還です。逆に失業保険を受領せずに敗訴(=解雇有効)となり,給付期間(1年)が経過すると,給付を受けられませんから,解雇紛争中に仮給付をもらうかどうかは微妙な判断が要求されますが,原則は受領した方が無難でしょう。
なお,ハローワークに離職票を出す場合は,離職事由に「異議あり」と書き,仮給付を希望することを告げましょう。
◆勝訴のすえ復職して給料をもらうと当然,源泉徴収がされますが,解雇を認めて慰謝料としての解決金を受領するなら課税されません。どちらの方向の解決にせよ,税金と社会保険を考慮した解決が必要です。
まず,就業規則がないのは論外です。その場合は普通解雇で頑張るしかありませんから,最初から普通解雇で解雇しましょう。「懲戒解雇したあとに普通解雇と言い直す」のはできない場合が多いです。
就業規則があって懲戒事由に該当しても,証拠がなければ裁判では苦しいです。軽くないミスには日頃から始末書をとり,業務日誌に記録し,解雇前に減給や出勤停止といった処分を段階的に行ないましょう。ミスなどの重大性やその被害結果,改善指導した(が直らない)といったあたりが重要です。
解雇無効裁判に勝訴しても,使用者側には1円も入りません。敗訴すれば裁判期間中(≒1年)の賃金の支払を強制されます。労働者と話し合いの末「自主退職」という形式を可能な限りとって,紛争化しないのが一番です。
◆労働者が「こんな会社,辞めてやる!!」と言ったことをとらえて自主的な退職があったという主張が使用者側からでることがありますが,これのみで退職の確定的意思表示ととらえるには裁判所は慎重です(渡辺弘「労働関係訴訟」114頁)。その後の出社状況,貸与物の返還,社会保険の手続など,その後に退職を前提とした行動が積み重なる必要があります。今回のケースで労働者側は,「自主退職」と間違われないよう,退職を前提にした行動はとらないよう注意が必要です。
◆「解雇予告手当を払えば常に解雇は合法」と勘違いしている人も多いですが,間違いです。あくまで懲戒事由の有無や相当性によります。また,予告手当は解雇日までに払わなければ意味がありません(予告日でも次の支払日でもありません)。
◆非違に対する処罰ではなく,単に能力不足等で辞めてもらうのは「普通解雇」といい,就業規則に記載がなくてもできます。ただし,やはり,解雇理由が今後も継続する性質のもので是正できず,解雇をもってあたるのが相当という重要性が必要です。
◆期間の定めがある労働者(いわゆる「契約社員」)は通常の労働者以上に解雇が困難です(労働契約法17条)。同法施行後,契約社員の普通解雇を認めた裁判例は存在しません。契約社員の場合は,契約期間満了を待った方が無難です。
労働者側,使用者側双方,着手金20-30万,報酬金30-50万くらいが相場かと思われますが,労働者の月給額,証拠の有無により20万くらいは前後すると思われます。
使用者側で,明らかに負けるケースの解雇の場合は,着手金のみ50万などの例もあります。