Q 2年契約で貸した借家を期間満了で返してもらいたいと思います。当然,できますよね?
A 当然できるとは限りません。建物の賃貸は,それが建物の独立しない一部の区画であったり,一時使用目的(取り壊し予定の建物の賃貸)だったり,後述する定期借家契約というものでない限り,借地借家法(平成4年8月1日より前の契約の更新なら旧借家法)という法律により,借家人が強力に保護されます(以下は借地借家法を前提に記述します)。賃貸人から期間満了により次回の更新を拒絶するには,
①満了の1年前~6箇月前に期間に更新しないという通知をし
②賃借人が使用を継続するならそれに異議を述べ
③正当事由,つまり賃貸人側がその建物を使う事情など
がなければなりません。「途中で解約できる」という条項が契約書にあっても,正当事由は必要です。
通常は現に賃借人がそこに住んでいるわけですから,賃借人が使用していない(そこでの商売を廃業しているとか,賃借人が他に家を持っているなど)ような事情がない限り,正当事由の勝負は基本的には賃借人に分があります。大家側の使用の必要性等が低ければ,立退きをさせられないか,立ち退き料の支払が必要になります。
契約時に「定期借家契約」にして,期間満了で原則契約終了にできるようにしておくのがマストです。定期借家契約とは,上記のような更新制度がない契約です。契約書を作成し,更新がないことを書面を交付して説明すれば成立します(法38Ⅰ)。いいタナゴさんだったらそのまま再契約すればいいし,よくないタナゴなら期間満了で追い出せばいいわけです。正当事由の勝負になると,どうしても賃貸人側が弱いのが通常ですから,おおさめ対策をとりましょう。
◆契約違反(賃料滞納,無断転貸など)があった場合は完全に別論となります。契約違反が当事者間の信頼関係を破壊する程度なら期間途中で契約解除できますので,きちんと契約解除の内容証明郵便を送りましょう。契約違反から5年放置すると解除権が時効にかかるおそれがあるためです(当事者の属性によっては時効期間は10年になります)。
1回滞納しただけとか,親族に一時的に転貸しただけなど,軽微な違反の場合は解除できないことがあります。
◆定期借家契約を期間満了後放置しておいても,黙示的に更新されることはなく契約終了通知をすれば通知から半年後に契約終了できるというのが現在の裁判例です(東地20.12.24)
◆平成12年3月1日より前の居住用建物賃貸借契約を定期契約に切替は法律で禁止されています(H11改正附則3)。逆に言うと,店舗などの契約は,(当事者に合意があれば)普通の賃貸借契約から定期に切替ができます。
賃貸人から解約や期間満了での立退きを求められた場合は,上記のとおり正当事由があるか契約違反がなければそのまま使い続けられます。去就を決する前に,その点をきちんと検討しましょう。
逆に家賃滞納などがあり,保証人もいると,保証人ともども家賃請求+明渡し請求をくらいますので,賃借人側に落ち度がある場合,突っぱるかどうかは要注意です。
◆賃借人側から解除したい場合,「●か月前予告により解約できる」という条項があれば,契約期間内でも解約できます。そのような条項がない契約書の場合,残念ながら契約期間内は解約が原則できません。
例外として,①契約が更新され更新後の契約期間に決まりがない場合,②契約期間の定めがない場合,または契約期間が1年未満の場合(借地借家法29Ⅰ)は,3箇月前予告により解約できます(民法617Ⅰ)が,更新後の契約期間を定めていない契約書はあまりみかけません。
賃貸人側:訴訟であれば,着手金30万前後,報酬金は30-50万くらいが相場と思われます。勝訴後,相手が立ち退かずに強制執行が必要となった場合はさらに20万30万程度加算されるあたりと思われます。
賃借人側:訴訟であれば,着手金30万前後,報酬金は獲得した立退料の17%くらいか,30万円前後くらいが相場と思われます。ただし,例えば賃料滞納があり敗訴必須の場合は,着手金を増額して報酬金なしという契約もありうるでしょう。
いずれも,一人暮らしの居宅なのか,一戸建てなのか,店舗なのかで金額がかなり変わってくると思われます。